「どこにかかるか」より「どう予防するか」へ
ピアノを弾いて手が痛んでなかなか治らなかったら、整形外科もしくは手の外科のお医者さんの診察を受けることを薦めます。関節リウマチなど、陰に根強い病気が隠れていることがあるからです。
しかし純然たる弾き過ぎによる手の故障、いわゆるオーヴァーユース障害の場合は、「どこにかかるか」「どう治療してもらうか」よりも、「どう自分で対処するか」「どう予防するか」を考えるべきだと私は思います。
弾き過ぎによって手を痛めた場合、楽器以外の動作で支障が出ることはあまりありません。楽器演奏の時だけに痛みが出る、障害が出るというのであれば、演奏という行為のために何らかの工夫をすれば、障害の予防ができるはずです。
「工夫」のターゲットは上述したように、ピアニストの手の痛みの大部分が筋肉にかかわる炎症なのですから、筋肉をどうケアすればいいか、という問題になってきます。「工夫」の中には筋肉のストレッチ、筋力の増強、筋肉のリラクゼーションなど、様々のものが考えられますが、その多くはわざわざ病院に出向かなくても、家庭でピアノを前にした状態で、できるはずです。
今回の特集では様々な「工夫」が紹介されると思いますが、これらを通じて、ピアノを愛する皆さんが安心して毎日練習できるようになっていただきたいと思います。
もちろん、望まれれば医師として治療はしますが、最終的にはピアノによる手の故障の予防法が確立し、誰もが手を痛めずに練習を楽しめるようになれば、私の音楽家専門外来にわざわざいらっしゃる必要もなくなるでしょう。
そうなれば演奏家も手の障害をおそれることなく存分に練習ができます。
こうした日が来ることが私の究極の目的ですが、これは必ず実現できると信じています。 |